Lesson 3-2 二つの睡眠のもう一つの顔

今度は内側から見てみよう

Lesson 2では、レム睡眠とノンレム睡眠について見てきましたが、引用した図やグラフは睡眠ポリグラフ検査によって得られたものでした。つまり、頭皮の上、脳の外側からの観察によって、ふたつの睡眠の仕組みを学んできたことになります。

ここでは、前回触れたPETやfMRIといった最新の技術から得られたデータを用いて、レム睡眠とノンレム睡眠を観察してみましょう。同じ現象でも、視点を変えると見えてくるものが変わります。

ノンレム睡眠時の脳

ノンレム睡眠時、脳全体の血流量が低下していることはすでに述べたと思います。特に、脳幹、前脳基底部、視床などは、著しく血流量が低下することが知られています。これらの領域は、おもに覚醒をつかさどると考えられている部位で、このことからも、ノンレム睡眠時には脳や全身の活動が低下することがわかります。


Lesson 2-6では、深いノンレム睡眠時に観察されるローカル・スリープ(局所睡眠)についてもお話ししました。ノンレム睡眠時の機能低下は必ずしも脳全体に同じように現れるのではなく、覚醒時の活動具合などによって、休息を必要としている部位に特に強く現れる、ということを説明した言葉です。このローカル・スリープについて詳しく見てみましょう。

ローカル・スリープと呼ばれる現象は、左側頭葉や左前頭葉と呼ばれる部位で観察されます。これらの部位には言語中枢が含まれています。つまり、覚醒時の活動(言語による思考や判断)が活発であったほど、他の部位よりも深い休息が必要とされるということがわかります。

眠らせる脳

しかし逆に、活動が活発化する部位もあります。それは睡眠中枢と呼ばれる領域です。睡眠中枢は、視床下部の前方、視索前野と呼ばれる部分に存在しています。睡眠中枢はその名の通り、睡眠を作り出す部位です。睡眠中枢の活動が活発化することによって、より深い睡眠が作り出されます。ここで重要なのは、睡眠が脳の機能低下によって「もたらされる」ものではなく、脳の一部が活発に活動することで「作り出される」ものであるという点です。このことから、睡眠中枢のある視索前野を「眠らせる脳」などと呼ぶこともあります。

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レム睡眠時の脳

今度は、ノンレム睡眠時とは違って、活発に活動しているレム睡眠時の脳の様子を見てみましょう。レム睡眠時には、脳幹の橋(きょう)にある橋被蓋(きょうひがい)と呼ばれる部位の活動が活発になります。この部位にはコリン作動性ニューロンという、信号の伝達物質としてアセチルコリンという脳内物質を利用するニューロンが存在します(ニューロンについてはLesson 2-2をもう一度参照して下さい)。他には、海馬、扁桃体も橋被蓋と同じように活発に活動します。これらの部位は、まとめて大脳辺縁系と呼ばれ、おもに感情の表出や記憶、自律神経活動などに関わっていると考えられています。

海馬は記憶や学習に関わる部位です。このことから、レム睡眠には記憶の整理や学習との深い関連があると考えられています。このことについては、後程、詳しく見ていきましょう。

扁桃体は感情や情動の表出、学習に関わる部位です。このことは、わたしたちが見る夢に大きく関係があります。レム睡眠中に見る夢の多くが、恐ろしさや楽しさなどの様々な感情を伴うものであることは、扁桃体の活動との関わりによるところが大きいと考えられています。

また、夢には前頭葉と呼ばれる部位も大きく関係しています。次回は、レム睡眠中に見る夢と、扁桃体をメインとした大脳辺縁系や前頭葉との関係について見てみましょう。

Lesson 3-2 まとめ

ンレム睡眠時…

  • 脳幹、前脳基底部、視床など、覚醒に関する部位の血流量が低下する。
  • ローカル・スリープは、言語中枢のある左側頭葉や左前頭葉で観察される。
  • 覚醒時の活動が活発な部位ほど他の部位より休息の欲求量が多い。
  • 睡眠中枢のある視索前野の活動は活発になる。
  • 睡眠はもたらされるものではなく作り出されるもの。

レム睡眠時…

  • 橋にある橋被蓋の活動が活発になる。
  • 大脳辺縁系(海馬、扁桃体)の活動が活発になる。
  • 海馬は記憶や学習に関わる。
  • 扁桃体は感情や情動の表出、学習に関わる。