Lesson 3-1 脳のなかへ

脳の深部をさぐるには

これまで、脳波を観察する方法としては、睡眠ポリグラフ検査を挙げてきました。しかし、脳波は非常に微細なものです。また、頭皮の表面から観察する方法では、脳の深い部位で起こっている活動を探ることには限界があります。では、前回見たような、脳の局部の活動はどのように観察したのでしょうか。

最新技術の恩恵

これらの観察は、PET(Positron Emission Tomography;陽電子放射断層撮影、ポジトロン断層法などと呼ばれる)や、fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging;機能的核磁気共鳴画像)といった最新の画像解析技術を用いることによって、近年可能になってきました。

fMRIはその名前からも分かるように、人間ドックなどで使用されるMRIの一種ですので、イメージもしやすいのではないでしょうか。これらの技術は、脳の血流量や代謝の変化を観測することで、脳の活動の三次元的な把握を可能にしました。脳の中で、どの部位が活発に動いているのか、そのとき他の部位はどんな影響を受けているのか。頭皮の上から脳波を測定するだけでは不可能だった検証が、技術の進歩によって可能になってきたのです。

脳の構造

ここで、脳の中へと入っていく前に、脳がいったいどのような構造をしているのか、簡単に見てみましょう。

脳参考画像

ヒトの平均体重は日本人の場合、成人男性で64.6キログラム、成人女性で51.6キログラムです。脳の重さは約1300グラムで、体重の50〜60分の1程度の重さしかありませんが、その消費エネルギーは、全身で消費するエネルギーの20%にもなります。いかに脳が人体の中で重要な働きをしているか、この数字からもその一端を窺うことが出来ます。

脳のいちばん内側に脳幹があります。脳幹は生命維持機能が集中している重要な器官で、この部分が機能を不可逆的に失ってしまうと、いわゆる脳死と呼ばれる状態になります。脳幹は脊髄につながっており、中脳、延髄、橋と呼ばれる部分に分かれます。この中脳と連続していて、大脳のもっと深いところに位置しているのが視床下部です。視床下部は睡眠にとって、とても重要な機能を担っています。

次回は、おさらいの意味も兼ねて、レム睡眠中とノンレム睡眠中の脳の活動について、これらの部位の働きと重ね合わせながら詳しく見てみることにしましょう。

Lesson 3-1 まとめ

  • PET、fMRI…血流量や代謝を測定することで、脳の活動を立体的に捉える技術。
  • 脳幹…脊髄につながっており、生命維持機能が集中している重要な器官。
  • 視床下部…大脳の最深部にあり中脳と連続している。