ノンレム睡眠の役割
前回の最後に、ノンレム睡眠は「脳の休息時間」であると言いました。これは、レム睡眠が「身体の休息時間」であることと、対になっているものです。まどろみ期から軽睡眠期を経て、深睡眠期(徐波睡眠)へ。ノンレム睡眠が四つの段階を経て深くなっていくとき、身体の中ではどのような変化が起き、脳は休息へと向かうのでしょうか。
身体は起きている?
レム睡眠時の身体の状態を振り返ってみましょう。レム睡眠時、脳から筋肉へと送られる信号は、脊髄で遮断され、全身の筋肉は呼吸器系などの一部を除いて、緊張を解かれた状態になっていました。思い出して頂けましたか?
では、ノンレム睡眠の場合はどうなっているのでしょう。前回お話しした、電車の中での居眠りの例を思い出してみて下さい。まだ睡眠の浅いまどろみ期(第一段階)では、座ったままの姿勢を維持していることが可能でした。その後、少しずつ睡眠が深くなっていくに連れて、首や手足に力が入らなくなっていきます。
さすがに深睡眠期には姿勢が保つのが難しくなるとはいえ、比較的浅いノンレム睡眠(まどろみ期〜軽睡眠期)の段階では、身体は椅子に座っているような姿勢を保っていることが可能なのです。この点がレム睡眠とは大きく異なるノンレム睡眠の特徴といえるでしょう。ノンレム睡眠時、身体の筋肉は完全に眠ってはいないのです。
そうはいっても、あくまでもレム睡眠時と比較した場合の話であり、覚醒時に比べれば、やはり筋肉の緊張は緩くなっています。少々紛らわしいのですが、レム睡眠中は「緊張が解かれた状態」、ノンレム睡眠中は「緩い緊張状態」と区別して下さい。
脳も身体も眠っている
このようにノンレム睡眠中、全身の筋肉の緊張が緩くなっていることは、脳の機能と関連があります。ノンレム睡眠が「脳の休息時間」である以上、信号を遮断するまでもなく、もともと発せられる信号が極端に少ないのです。ときおり寝返りを打つこと以外、ほとんど動きらしい動きは見られません。体温が下がるため、からだ全体のエネルギー消費も少なくなります。
ノンレム睡眠中、脳は一日のうちでエネルギー消費やニューロンの活動が最も抑えられた状態になります。ニューロンの発火頻度が同期して少なくなるため、脳波も非常に緩やかなものになります。
自律神経系の動きも見てみましょう。ノンレム睡眠時は、交感神経より副交感神経の働きが活発になります。副交感神経は、身体機能を落ち着かせる働きをするものでした。そのため、心拍数や血圧、脈拍なども下がり、消化器系の機能が活発になります。この点もレム睡眠時とは対照的です。レム睡眠時は身体が休み、脳が活発に活動していましたが、ノンレム睡眠時には、脳が休み、それに伴い身体の機能も低下します。
身体面を比較すると少々紛らわしいのですが、脳の活動の違いを見れば、レム睡眠とノンレム睡眠の違いが、よりはっきりとわかります。
疲れた場所ほどよく眠る
深いノンレム睡眠(深睡眠期)では、脳内全体の血流量は大幅に減少しています。また、脳の中でも特に覚醒に関わる部位、脳幹、視床、前脳基底部の活動が著しく低下していることが知られています。このことからも、ノンレム睡眠中に脳の機能が低下していることがよくわかります。
また、大脳皮質の活動も低下しますが、大脳皮質全体の活動が一斉に抑えられるわけではなく、覚醒中、特に活発に活動する言語中枢などの部位の機能が目立って低下します。覚醒中に使った部分の疲れを取り戻そうとしているかのようです。このことから、睡眠は脳全体に同じように現れるのではなく、覚醒時の活動具合などによって休息を必要としている部位に特に強く現れることがわかります。このような現象は睡眠が局所的にコントロールされているという意味で、「ローカル・スリープ(局所睡眠)」と呼ばれています。
Lesson 2-6 まとめ
- ノンレム睡眠時は、身体の筋肉は完全に眠ってはいない。
- ノンレム睡眠中、脳は一日のうちでエネルギー消費やニューロンの活動が最も抑えられた状態になる。
- ノンレム睡眠時は、交感神経よりも副交感神経の働きが活発になる。
- 深いノンレム睡眠時、脳内全体の血流量は大幅に減少し、特に覚醒に関わる部位の活動が著しく低下している。
- 睡眠は脳内でも局所的にコントロールされている…ローカル・スリープ(局所睡眠)。