おさらい
前回の簡単なおさらいです。
- ノンレム睡眠中は、ニューロンの発火は同期して少なくなる。
- レム睡眠中は、ニューロンの発火があちこちで頻繁に起こる。
ニューロンの発火が頻繁に起こっているということは、脳は活発に活動していて、覚醒中の状態に近いということです。しかし、
- レム睡眠中は、脳だけが活発に活動して身体は眠っている状態になる。
脳が活動していても、感覚器官から脳へ送られるべき情報や、逆に脳から身体の筋肉へ送られるはずの情報は遮断されてしまうため、脳だけが起きていて、身体は眠っているという状態になります。ここまでが前回のおさらいです。思い出していただけたでしょうか。
では、なぜ脳はこのような状態を作り出しているのか、掘り下げて見ていきましょう。
レム睡眠=浅い眠り?
一般的に、「レム睡眠は浅い眠り、ノンレム睡眠は深い眠り」と考えている方は多いと思います。急速眼球運動という名の通り、レム睡眠中は眼が動いていることから、そう考えている方が多いのかもしれません。また、前回学んだように、脳が活発に働いていることも確かです。しかし、だからといってレム睡眠を単なる浅い眠りと捉えてしまっていいのでしょうか。レム睡眠だけに特徴的な機能や役割はないのでしょうか?
困難な実験
レム睡眠の役割を導き出すためには、睡眠からレム睡眠だけを取り除き、そこに現れる弊害を見てみるのが近道です。レム睡眠だけを取り除く実験は、理屈そのものだけを見れば単純です。これまでにも見てきた睡眠ポリグラフ検査で、睡眠中の被験者の脳波を観察し、被験者がレム睡眠に入ったところで覚醒させる、これを一晩中繰り返すだけです。つまり、被験者がノンレム睡眠のみをとるようにさせるのです。
理屈だけならば簡単そうですが、この実験が非常に難しいのは、レム睡眠に入る前に被験者を覚醒させるということを何度も繰り返していると、入眠してからノンレム睡眠を経てレム睡眠に至るまでの時間(レム潜時と呼ばれます)が、どんどん短くなっていってしまうという点です。つまり、実験を進めていくにしたがって、被験者にはレム睡眠だけが現れるようになり、実験後半では、レム睡眠を取り除くことが睡眠そのものを取り除くことになってしまうのです。
レム睡眠はただの浅い眠りではない
たくさんの実験が試みられて来たにもかかわらず、このようにレム睡眠だけを取り除くことは困難です。しかし、「レム睡眠だけを取り除くことは困難」という事実そのものが、レム睡眠のひとつの特徴を示唆してくれます。つまり、レム睡眠時に繰り返し覚醒させられることで、ノンレム睡眠は現れなくなるにも関わらず、レム睡眠が現れなくなることはないのです。
Lesson 1-2で取り上げた、最長不眠記録に挑んだアメリカのDJ、ピーター・トリップのことを思い出して下さい。彼は実験が終わると、200時間にも及ぶ断眠の疲れを癒して睡眠不足を補うために、丸一日眠り込みました。じつはそのとき、彼の睡眠には健康な成人男性よりもはるかに早い段階でレム睡眠が現れ、その状態が長時間続いたといいます。
強度の睡眠不足を補うためなら、「深い睡眠」であるノンレム睡眠がより多く現れ、「浅い睡眠」であるレム睡眠が現れる時間は少なくなるはずです。しかし実際に多く現れたのはレム睡眠でした。これらの点から、レム睡眠は単なる浅い眠りではなく、絶対必要とされている睡眠であると考えることが出来ます。
ではその役割は?
どんなに睡眠不足のときでも、脳が絶対必要とするのがレム睡眠であるとするなら、やはりノンレム睡眠には無く、レム睡眠だけが持つ特徴が、他にもあるはずです。次回も、レム睡眠の特徴についてさらに掘り下げていきます。
Lesson 2-3 まとめ
- レム睡眠だけを取り除くことは非常に困難。
- レム睡眠時に繰り返し覚醒させられると、ノンレム睡眠は現れなくなるが、レム睡眠が現れなくなることはない。
- レム睡眠は単なる浅い眠りではなく、脳に絶対必要とされている睡眠である。