Lesson 2-4 身体を休ませる眠り

不思議な眠り

レム睡眠の役割を調べるために行なわれた実験が、非常に困難を伴うものであることは前回お話ししました。そしてこの実験は、レム睡眠に入るたびに起こされる被験者にとっても、ご想像の通りなかなか大変なものです。この厄介な実験の被験者となった人々は、起こされるたびに「夢を見ていた」と答えました。

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夢を「見て」はいない

よく知られているように、レム睡眠は夢を見る睡眠でもあります。ここで、ありがちな誤解をひとつ解いておきたいと思います。レム睡眠は夢を見る睡眠であり、急速な眼の動きが観察される睡眠でもあります。このふたつの理由から、眼の動きは夢で何かを見ていることに関係があると思われがちです。確かに、急速眼球運動(REM)は覚醒時に何かを見ているときに非常によく似た動きではあります。しかし動物実験では、なにかを見るために眼を動かす大脳の働きがなくても、急速眼球運動が現れることが確認されました。この実験結果から、レム睡眠中の眼の動きは夢のなかの体験を反映したものではないと、現在では考えられています。

逆説睡眠

レム睡眠中の大脳は、覚醒中と同じか、もしくはそれ以上に活発な働きをしています。覚醒時とレム睡眠中の脳波を較べて見てみて下さい。

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波形はふたつとも小さな振幅で、活発な動きを示しています。覚醒中とレム睡眠中の脳の働きが非常に似通っていることが一目瞭然です。

このような脳の状態から、レム睡眠は逆説睡眠(Paradoxical Sleep)と呼ばれることもあります。

おいてけぼりの身体

眼や脳が活発な動きを見せるのとは対照的なのが、身体の状態です。

レム睡眠中、全身の筋肉からは力が抜けてしまっています。もちろん完全に筋肉の緊張がなくなってしまうわけではなく、呼吸や循環器系の運動を支える筋肉はきちんと(それでもやや不規則に)運動を続けていますが、傍目から見ると全身が弛緩しきっているように見えます。これは、いままでにも何度かお話ししましたが、脳から全身の筋肉への指令が遮断されているからです。活発な脳からは、脊髄に向けて、運動ニューロン(筋肉への指令)を麻痺させるように信号が送られています。いわば、脳からのアウトプットが脊髄で断たれた状態になっているのです。

自律神経系の変化

レム睡眠中の自律神経系の働きを見てみましょう。自律神経系とは、呼吸、発汗、体温調節、代謝機能、内分泌機能や生殖機能など、生命維持に欠かせない機能をつかさどる神経系です。自律神経系は、身体の持ち主の意志によってはコントロールできません。その点から、不随意神経系と呼ぶことも出来ます。

自律神経には交感神経と副交感神経があります。それぞれに複雑な機能を持っていますが、ここでは大まかに、交感神経は身体機能を活性化させる働きをし、副交感神経は身体機能を落ち着かせる働きをすると捉えておいて下さい。

自律神経系の活動は交感神経、副交感神経ともに、レム睡眠時、大きく変動しています。まず、心拍数や脈拍は増えて、不規則になります。血液の循環が活発になるので、男性の場合は陰茎、女性の場合は陰核の勃起が生じます。しかし、体温調節機能はほとんど停止してしまいます。

身体のメンテナンス

レム睡眠時に身体や脳の中で起こっていることとしては、これらのことが挙げられますが、結局のところ、レム睡眠の役割については、まだまだ謎のままになっている部分が多いのです。またそのミステリアスな性質が研究者の好奇心を刺激するのか、活発な研究が続けられています。

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ひとつだけ確実に言えることは、レム睡眠は身体を休ませるための眠りであるということです。レム睡眠中、生き物の運動の基本を担っている骨格筋のほとんどは弛緩しています。覚醒時の疲れを取り、また次の覚醒に向けて身体のメンテナンス、ウォーミングアップをしているのです。

Lesson 2-4 まとめ

  • レム睡眠中の眼の動きは夢のなかの体験を反映したものではない。
  • レム睡眠は逆説睡眠(Paradoxical Sleep)とも呼ばれる。
  • レム睡眠中、脳から脊髄に向けて、運動ニューロンを麻痺させる信号が送られている。
  • レム睡眠中、自律神経系の活動は交感神経、副交感神経ともに大きく変動している。
  • レム睡眠は骨格筋の緊張を解き、身体を休ませるための眠りである。