不眠は心のSOS
ストレスを全く感じずに、日常生活を送ることは誰にも出来ません。不安や緊張といったマイナス感情を伴ったものはもちろん。嬉しいときに感じる高揚感や興奮などもストレスの一種ですので、本人にとって不快なものではなくても身体に負荷をかけていることはあり得ます。
誰しも自分なりのストレス解消法をいくつか持っていると思いますが、睡眠は生物全般に共通なストレス解消法です。しかしストレスが大きくなりすぎて、睡眠自体に支障をきたすようになると、心の病になる危険がすぐそばまで迫ってきています。Lesson 7-7でも見たように、不眠は精神疾患に先行して現れることも多いのです。
ストレスにも限度がある
不安、憂鬱、緊張…、これらのストレスは、決して心地良いものではありませんが、生きていくためは欠かせないものです。新しいことにチャレンジするときに、なんの不安も感じない人はいないでしょう。ストレスを感じて食欲がなくなったり、たくさん汗をかいたり、眠れなくなったりということは、誰にでも起こります。しかし、心にも身体にも、ストレスを受け入れられる許容量があります。ストレスを感じていることを自覚しているにもかかわらず、息抜きや休憩を取ることも出来ず、常にストレスに晒されたままになっていれば、心も身体も悲鳴を上げて壊れてしまいます。悲鳴は様々なかたちをとって現れますが、そのひとつが不眠です。
心身の回復が出来なくなる
本来であれば、睡眠には心身の回復効果があるので、睡眠をとると多少は気持ちが軽くなるのが普通です。悩みが消えることはなくても、ほんの数時間でも眠るだけで心の重さは変わります。しかし不眠になってしまうと、そのような回復効果が期待できません。うつ病患者は、朝から午前中にかけてひどい憂鬱を感じます。きのうからの憂鬱をそのまま引きずっていて(もしくは酷くなっていて)、その上さらに新しい一日が始まるということが、憂鬱には終わりが来ないという漠然とした印象を与え、より一層の苦しみを感じさせます。睡眠をとれなくなることで心身の回復効果を奪われることは、うつ病の発症の大きな引き金になっているとも考えられています。
うつ病と診断される人の中には、うつ状態ではなく不眠を訴えて医師を受診した人も少なくありません。うつ病の初期の状態では、不眠を主症状と捉える人が多いこと、本人にはうつ病の自覚がないことをよく示しています。もし、本人が不眠を一時的なものと考えて無理を重ねていったら、うつ病をさらに悪化させてしまうことになりかねません。
不調と病気の境界線
ひどく憂鬱で無気力、悲観的になり、たとえ大好きなことでも興味や喜びを見出せなくなる。睡眠をとって気分転換を図ろうとしても眠ることが出来ずに疲れだけが溜まっていく。そんな状態が2週間以上続いていて抜け出せない…、うつ病とは、大まかにこのような状態を指します。
「憂鬱感」と「うつ病」の症状は、キッチリと境界線を引けるものではなく、連続的なものです。ネット上にも、うつ病にかかっている可能性を自己診断できるセルフチェックがたくさんありますが、その結果が悪いからといって必ずしもうつ病というわけではありません。逆に、周囲から見て異常な状態なのは明らかなのに、本人が病気と認めたがらずに診察を拒み続けて最悪のケースに至ってしまう、ということもあります。
切り離せない不眠とうつ病
うつ病の治療方法には、抗不安薬、向精神薬などを用いる薬物療法や、思考方法を少しずつ変えていく認知行動療法などがあります。ストレスの元を取り除くことと同時に、過剰なストレスで壊れてしまった脳や身体の機能回復を図るのです。そのため、しばしば不眠の治療はうつ病(を含む多くの精神疾患)の治療の一環としても行なわれます。正常な眠りを取り戻すことは、精神疾患の治療と切り離すことができません。
早めの受診が一番
誰にでもある不調か、それとも心の病なのか、診断には常に難しさが伴います。目安として、日常生活に支障をきたすほどに症状が悪化していたら、それは疑いなく精神疾患と認められる、というものがありますが、そうなってからでは遅いのではないか?と思う方も多いでしょう。ストレスの許容範囲は人によって違うものであり、自分の心や身体のことは自分が一番よく知っています。自分を客観的に見られているか不安なときは、身近な人にアドバイスを求めるのも有益でしょう。どちらにしても、手遅れになる前に早めに専門医を受診することが大切です。診察の結果、それが一時的な不調だったとしても、それは恥ずかしいことでもなんでもありません。
Lesson 8-5 まとめ
- 不眠はストレスの許容量を超えた心身のSOS。
- 睡眠には心身の回復効果がある。睡眠をとれなくなり心身の回復効果を奪われることは、うつ病の発症の大きな引き金になる。
- うつ病…ひどく憂鬱で無気力、悲観的になり、たとえ大好きなことでも興味や喜びを見出せなくなる。睡眠をとって気分転換を図ろうとしても眠ることが出来ずに疲れだけが溜まっていく。そんな状態が2週間以上続いていて抜け出せない。
- 「憂鬱感」と「うつ病」の症状は、キッチリと境界線を引けるものではなく、連続的なもの。
- 不眠の治療は精神疾患の治療の一環としても行なわれる。
- ストレスの許容範囲は人によって違うので、不安なときは早めに専門医を受診することが大切。