Lesson 7-7 不眠症

 「不眠症」が指すもの

不眠症と一口に言っても、その症状は様々であり、言葉の持つ意味が場面によって変わってしまうこともあります。Lesson 7で扱ってきた睡眠障害はほとんどの場合に不眠を伴いますが、不眠症もまた多くの場合、他の睡眠障害を併発しています。その境目は曖昧で、症状の様相が似ていることも多いため、専門医でも誤診することが少なくないといいます。

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不眠症の分類

少しややこしくて分かりづらいかもしれませんが、不眠症は、以下のような3種類に分けられます。

  • 原発性不眠症…医学的、精神医学的、環境的原因がなく、1ヶ月以上続く不眠症状。
  • 二次性不眠症…他の身体疾患、精神障害などを原因とした不眠症状。
  • 物質誘発性不眠症…薬剤の使用や離脱症状を原因とする不眠症状。

原発性不眠症

他に原因となる病気や環境的要因(騒音など)がない不眠症で、概日リズムの乱れや、精神的な不安などが原因として多く見られます。精神疾患患者の不眠は、精神的不安と精神疾患との境目が連続的で見分けがつきにくいこと、不眠は精神疾患に若干先行する場合もあるが同時に現れる場合も多いことから、原発性か二次性かを見分けることが困難なことがあります。

二次性不眠症

いちばん分かりやすい不眠症かもしれません。これまでに見てきた睡眠障害や精神疾患、内科的・外科的な病気や怪我によって併発したり、騒音などの環境要因が原因となることもあります。

物質誘発性不眠症

うつ病や神経症などの精神疾患を治療する抗不安薬や睡眠薬の副作用、使用の中止による離脱症状などを原因とする不眠です。不眠症を治療する薬も、使用を急に中止すると離脱症状を起こすことがあります。

(主観的不眠症)?

厳密には不眠症ではありませんが、自分が本来とれる睡眠時間を多く見積もってしまったために、充分眠れているにも関わらず不眠を訴えることがあり、逆説性不眠と呼ばれています。高齢者に多く見られ、実際に不眠の症状がなくても、「自分は眠れていない」というストレスが蓄積されることによって本物の不眠症を引き起こしてしまうことが稀にあります。

不眠症の症状

不眠症の主な症状には、以下の4つがあります。

  • 入眠困難…眠りに入ることが出来ないという症状で、多くの場合、不安や緊張などを伴う。
  • 中途覚醒…夜中に一度目が覚めてしまい、眠気を感じているにもかかわらず眠りに戻れなくなる症状。
  • 早朝覚醒…平均的な睡眠時間に達する前、早朝のうちに目が覚めてしまい、もう一度睡眠に戻ることが出来ない症状。うつ病患者に現れることが多い。
  • 熟眠障害…ある程度の時間眠っても眠ったという実感が得られない症状。

これらの他に、眠りの質が低いことも、不眠症の原因であると同時に主症状でもあります。

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様々な原因

不眠症の原因には様々なものがありますが、大まかにまとめると以下のようになります。

  • 不安や緊張などのストレス
  • 交替勤務、時差ぼけなどによる概日リズムの乱れ
  • 他の睡眠障害(睡眠随伴症、睡眠時無呼吸症候群など)
  • 精神疾患(うつ病、双極性障害、不安障害、統合失調症、強迫性障害、全般性不安障害、心的外傷心的外傷後ストレス障害、ADHDなど)
  • 認知症
  • 月経に伴うホルモンの変化
  • 痛みを伴う怪我や病気
  • 薬物の離脱症状(抗不安薬、睡眠薬など)
  • 向精神薬の覚醒作用
  • 過度のアルコールやカフェイン摂取
  • 薬物の乱用(市販薬や処方薬を含み、違法薬物に限らない)
  • 環境的な要因(騒音、振動など)

このように、不眠症の原因は様々で、原因と考えられているものと不眠症とのあいだにあるのが因果関係なのか相関関係なのかを見分けづらいことも少なくありません。

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治療方法としては、まずは考え方を変える、寝室の環境を改善する、原因となっている疾患を治療するなど、原因を取り除くことが最優先されます。重度の不眠症や精神疾患を併発している場合は薬物療法を行なうことも多くあります。睡眠薬は処方通りに、短期的に服用すれば副作用も少なく効果がありますが、長期的に服用していると依存や耐性が形成される場合もあり、処方には慎重な医師もいます。

その他、薬物を使わない方法として、リラクゼーション法、漢方薬の処方、瞑想やヨガなども奨励されています。

眠れなければ眠れないでかまわない

不眠症の予防としては、生活リズムを整えること、カフェインなどの刺激物を摂りすぎないことはもちろん、日中に充分運動をすることも効果的です。

しかしいちばん重要なのは、眠ろう眠ろうと考えすぎないことです。寝つけないときに眠ろうと意識してベッドにいても、ますます眠りから遠のいてしまうことは、皆さんも経験からご存知なのではないでしょうか。眠れないときには、眠れなくてもいいや、ぐらいの気持ちで、リラックスして好きな本を読んだりテレビを見るほうが、結果的に早く眠れたり、精神的なストレスを減らすことにつながります。

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Lesson 7-7 まとめ

  • 原発性不眠症…医学的、精神医学的、環境的原因がなく、1ヶ月以上続く不眠症状。
  • 二次性不眠症…他の身体疾患、精神障害などを原因とした不眠症状。
  • 物質誘発性不眠症…薬剤の使用や離脱症状を原因とする不眠症状。
  • 逆説性不眠…自分が本来とれる睡眠時間を多く見積もってしまうために、充分眠れているにも関わらず不眠を訴えること。
  • 入眠困難…眠りに入ることが出来ないという症状で、多くの場合、不安や緊張などを伴う。
  • 中途覚醒…夜中に一度目が覚めてしまい、眠気を感じているにもかかわらず眠りに戻れなくなる症状。
  • 早朝覚醒…平均的な睡眠時間に達する前、早朝のうちに目が覚めてしまい、もう一度睡眠に戻ることが出来ない症状。うつ病患者に現れることが多い。
  • 熟眠障害…ある程度の時間眠っても眠ったという実感が得られない症状。
  • 不眠症の原因…精神的要因、身体的要因、環境的要因など様々。
  • 不眠症の治療…考え方を変える、環境を改善する、原因疾患の治療など、原因を取り除くことが最優先。
  • 不眠症の予防…眠ろうと考えすぎないこと。眠れないときには眠れなくても構わないと気楽に考えること。