Lesson 7-6 レストレッグス症候群

むずむず脚症候群

睡眠に関連した障害の中でも風変わりなものに、レストレッグス症候群があります。日本語では「むずむず脚症候群」、「下肢静止不能症候群(かしせいしふのうしょうこうぐん)と呼ばれるこの障害も、患者を心地良い睡眠から遠ざけてしまいます。

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特徴的な症状

日本語での病名が示す通り、この障害の症状は非常に特徴的です。症状は主に夜間に現れ、休みを取るため横になったり、眠ろうとしてベッドに入ると、下半身を中心に異様な感覚に襲われて、脚を動かさずにはいられなくなります。当然、眠ることも出来ません。この「異様な感覚」は患者によって様々であり、主に次のようなものが知られています。

  • むずむずとした感じ。
  • 痒い。
  • じっとしていられない。
  • 火照ったような感じ。
  • 針で刺されるような痛み。
  • 虫が這っているような不快感。
  • 振動を感じる。

他人に伝えることが難しい症状を呈することが多く、患者のなかには、「脚のなかに手を入れてかき回したい」ほどの不快感を訴える方もいます。

また、悪化すると、夜間だけではなく、夕方のような早い時間帯でも症状が現れるようになってしまいます。テレビを見ているときや、電車での移動などの場面、また会議中など緊張感を伴う場面でも、症状が現れて脚を動かさずにはいられなくなります。また、異様な感覚は下半身から腹部、腕などに広がってくることもあります。

なかなか理解されない深刻さ

症状が現れると、眠りに就くこと自体が困難になり、仮に眠れたとしても、熟睡することは難しく、夜間に何度も目が覚めたりするなど、著しく睡眠の質が落ち、睡眠時間が不足します。また日中も、じっとしたままでいると症状が現れてしまうため、デスクに向かうことも出来ず、社会生活にも大きく支障を来してしまいます。このような生活が長引くと、ストレスが溜まり、うつ病などの精神疾患を併発したり、最悪の場合、自殺に至ることもあります。ナルコレプシーと同じように、周囲からの理解が得られにくいことも、患者の精神的苦痛をますます高めてしまいます。

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ドーパミンの地道な働き

レストレッグス症候群の原因は、まだ完全には解明されていませんが、やはり神経伝達物質の機能低下が原因だとする説が有力です。

ドーパミンという名前は、耳にしたことがある方も多いでしょう。ドーパミンも、やはり視床下部から分泌される神経伝達物質の一種です。ドーパミンは、筋肉の運動情報の伝達や抑制、快不快の伝達などに関わっていると考えられています。たとえば、激しい運動をしている最中よりも、その合間に短時間の休憩を取っているときのほうが、筋肉に痛みや疲労感を感じることがあります。これは運動中、ドーパミンによって筋肉の感覚が鈍化されているためです。感覚が鋭敏な状態では運動を続けることが出来ないと神経細胞が判断すると、ドーパミンは筋肉から脳への情報伝達を抑制します。そして運動が終わると、抑制を解き、情報を脳に正しく伝えて、筋肉の疲れが把握できるようにします。

このような激しい運動をしていない日常の場面でも、ドーパミンによる感覚の抑制は常に働いています。たとえば、電車の席で膝の上に重いバッグを置いているときには、膝からの情報を抑制して、重さを感じにくくしているのです。

ドーパミンの機能が低下すると…

ドーパミンの機能低下が起こると、筋肉からの情報は抑制されずに脳へ送られてしまいます。本来であれば感じることのないような微細な情報も、すべて感じてしまう状態になるのです。これがレストレッグス症候群の症状です。

鉄分が足りなくなると、ドーパミンが分泌されにくくなります。そのため、貧血体質の人や、胃腸の手術後で、鉄分の給水低下が起こっているときなどに、レストレッグス症候群は発症しやすいと言われています。中高年以上の女性も発症率が高く、また妊娠中の女性は20パーセントの確率でレストレッグス症候群を発症するといわれています。体内の栄養分を赤ちゃんにも与えるため、鉄分も不足しやすいためと考えられています。

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周期性四肢運動障害

レストレッグス症候群と似ているものに、周期性四肢運動障害と呼ばれる障害があります。周期性四肢運動障害では、眠っている最中に脚や手がピクンと痙攣したり、反復する動きを周期的に繰り返して、そのために睡眠が妨げられてしまいます。睡眠の前半から中盤にかけて、症状が現れ、朝に近づくにしたがって頻度が減っていきます。

この障害も、ドーパミンの関連した神経機構の機能低下が原因と考えられています。手足の痙攣や動きは脳からの命令で起こっているわけではなく、不随意運動と呼ばれる筋肉自身の勝手な運動で、運動神経の調節に支障が来されることで引き起こされます。

周期性四肢運動障害は、レストレッグス症候群の患者が併発している場合が多く、やはり中高年に多く見られます。

予防と治療

レストレッグス症候群、周期性四肢運動障害ともに、鉄分の欠乏を防ぐことが予防につながります。カフェインやアルコール類を抑えることも有効です。

症状が現れてしまった場合は、根治することは出来ませんが、ドーパミンの働きを助ける薬を使って、症状や不快感を抑えることが出来ます。また、自己診断からサプリなどで鉄分を補おうとすると、かえって症状が悪化することがあるので、注意が必要です。

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Lesson 7-6 まとめ

  • レストレッグス症候群…横になると下半身を中心に異様な感覚に襲われて、脚を動かさずにはいられなくなる。睡眠時間の不足、生活の質の悪化などによってストレスが溜まり、精神疾患を併発したり自殺に至ることもある。
  • ドーパミン…視床下部で分泌される神経伝達物質。筋肉の運動情報の伝達や抑制、快不快の伝達などに関わっている。
  • 鉄分が不足しドーパミンの機能低下が起こると、筋肉からの情報は抑制されずに脳へ送られてしまい。レストレッグス症候群が発症する。
  • レストレッグス症候の発症率…中高年以上の女性や妊娠中の女性に高い。
  • 周期性四肢運動障害…睡眠中に脚や手がピクンと痙攣したり、反復する動きを周期的に繰り返す。ドーパミンの関連した神経機構の機能低下が原因。