Lesson 8-1 睡眠不足が引き起こした事故

心配しすぎは毒だけど…

Lesson 1-2で見たような不眠記録へのチャレンジや、動物による断眠実験からも分かるように、睡眠をとらずに暮らすことは不可能です。

断眠や不眠記録に挑戦するような極端な例は別としても、日常的に睡眠不足に悩んでいる方は多いでしょう。睡眠時間を気にしすぎても、かえって眠れなくなったり、睡眠の質が悪化することは、Lesson 1-3で勉強しました。しかしそうはいっても、睡眠不足によってもたらされる様々な影響について知っておくことは、やはり重要です。

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石油タンカーの座礁事故

いつもより、睡眠時間が1〜2時間ぐらい減っても、いったん起きてしまえばいつもどおりに活動できるし問題ない…そう考える方も多いかもしれません。実際問題として、一日も寝不足を感じずに一週間を過ごすことは、それほど多くはないでしょう。それでも、ほとんどの場合は生活に支障を来さずに過ごせていると思います。

しかし、ちょっとした睡眠不足の影響も、軽く見ることは出来ません。自分でも気づかないうちに集中力が散漫になっていて、仕事上の些細なミスにつながってしまうこともあります。そして、些細なミスが大きな事故に繋がった例は、いままでに数多く報告されています。

1989年5月、世界最大級の石油タンカーが、カリフォルニア州ロングーチを目指してアラスカから出港しました。出港の直後、進路上の大きな氷塊を避けようとした三等航海士が、進路の変更を試みます。しかし、自動操縦装置が作動していることに気づくのが遅れたため、タンカーは暗礁に乗り上げ、莫大な量の石油を付近の海に流出させ、深刻な環境汚染を引き起こしました。

睡眠不足が事故を引き起こす

事故調査委員会の調査によって、この事故の原因は、三等航海士の睡眠不足による判断ミスと断定されました。事故の前日、前々日と、航海士は6時間の睡眠しか取れておらず、疲労が蓄積していたと考えられたのです。

6時間の睡眠と聞けば、じゅうぶんに眠れていたと考える人も少なくないと思われます。しかし、人が求める睡眠の量は個人差によるところが大きいため、一概に多い少ないと決めることは出来ません。ここで重要なのはむしろ、6時間という、ある程度まとまった睡眠をとっていても、疲労を解消できないこともあるということではないでしょうか。

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このように睡眠不足によるミスが原因と考えられている事故には、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故や、スリーマイル島原子力発電所のメルトダウン事故、チェルノブイリ原子力発電所のメルトダウン事故など、多くの人命が失われたり、地球環境へ甚大な汚染を与えたものもあります。睡眠時無呼吸症候群が引き起こした山陽新幹線の居眠り運転や、近年知られるようになってきた、過酷な労働環境下での疲労蓄積による長距離バスの事故なども、広義の睡眠不足による事故として挙げられるのではないでしょうか。

Lesson 8-1 まとめ

  • ちょっとした睡眠不足の影響も軽く見ることは出来ない。
  • ある程度まとまった睡眠をとっていても、疲労を解消できないこともある。