もういちど、上行性脳幹網様体賦活系説
マグーンとモルッチが提唱した「上行性脳幹網様体賦活系説(じょうこうせいのうかんもうようたいふかつけいせつ)」。何度読んでもすんなり読めない名称ですが、簡単におさらいしてみましょう。
彼らは、脳幹に覚醒をつかさどる中枢があると考えました。その中枢から、さらに上位の中枢へ信号を送り出して大脳を賦活することによって覚醒状態が作り出されると考えたのです。この説は多くの追試験によって確かめられ、さらにジュペらによって、レム睡眠も、ほとんど同様のメカニズムによって作り出されることが発見されました。
前回の内容を大まかにまとめると、このようになります。思い出していただけましたか?今回は、さらにその後の研究によって明らかになった、覚醒と睡眠に関する脳内のメカニズムについて、学んでいきましょう。
神経核のはたらき
脳幹にはたくさんの神経核と呼ばれる部分があります。前回も簡単に触れましたが、神経系の分岐点や中継点などの重要な部分で、ニューロンの集合した部分でもあります(ニューロンについては、Lesson 2-2を参照して下さい)。
いくつかの神経核は、ある特定の神経伝達物質を作り出します。これらの神経核のなかに、覚醒と睡眠の制御をする働きを持つものがあることが、明らかになってきました。
神経伝達物質
では、神経伝達物質とはいったいどのようなものでしょうか。ニューロン間の情報のやりとりは、樹状突起と軸索との間のシナプスが行なっています。しかしニューロンはくっついているわけではありません。広げた左手と右手が隣り合っているような図をイメージして下さい。左手が上流、右手が下流のニューロンです。常に構造や数を変化させているシナプスは、いわば絶えず動いている指です。神経伝達物質は、左手から右手に手渡される手紙のようなものなのです。
もう少し具体的に見ていくと、神経伝達物質には様々な種類があり、アミノ酸(グルタミン酸、GABAなど)、生体アミン(アドレナリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリンなど)や、アミノ酸がつながって出来たペプチドなどがあります。神経伝達物質には100を超える種類が発見されていますが、まだまだ未発見のものも多いと考えられています。
これらの神経伝達物質を用いて情報伝達を行なっているニューロンを、「〜作動性ニューロン」と呼びます。たとえばアドレナリンを神経伝達物質として利用しているニューロンは、アドレナリン作動性ニューロンと呼ばれます。
このようなニューロンが集まっている神経核のなかに、覚醒時と睡眠時で活動を変化させているものが発見されました。また、この活動の変化が覚醒と睡眠の移行よりも先行して観察されることから、このような働きをする神経核が、覚醒と睡眠を制御していると考えられています。
次回は、神経伝達物質を用いて覚醒と睡眠を制御しているニューロンについて掘り下げていきましょう。
Lesson 4-3 まとめ
- 神経核は、ある特定の神経伝達物質を作り出す。
- 神経伝達物質…ニューロン間の情報のやりとりに用いられる。アミノ酸(グルタミン酸、GABAなど)、生体アミン(アドレナリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリンなど)や、アミノ酸がつながって出来たペプチドなど。
- 神経伝達物質を用いて情報伝達を行なっているニューロンを、「〜作動性ニューロン」と呼ぶ。(例:アドレナリン作動性ニューロン)
- 覚醒時と睡眠時で活動を変化させている神経核が、覚醒と睡眠を制御していると考えられている。