Lesson 4-4 モノアミン作動性メカニズム

ふたつの切り替えメカニズム

今回と次回は、上行性脳幹網様体賦活系説が提唱されてからの研究によって明らかにされた、覚醒と睡眠を切り替えるふたつのメカニズムについて学んでいきたいと思います。

どちらのシステムも、前回学んだ神経伝達物質が大きく関わっています。今回はまず、モノアミンと総称される神経伝達物質によって引き起こされるメカニズムについて見ていきましょう。ややこしい名称がいくつか出てきますが、頑張って読んでみて下さい。

モノアミン

モノアミンは、アミノ酸からカルボキシル基が外れた形を基本として持っている化学物質の総称で、次のような化学物質が含まれています。

  • ノルアドレナリン
  • セロトニン(インドールアミンの一種)
  • ヒスタミン
  • ドーパミン

これらのモノアミンは、神経伝達物質として働きます。

モノアミン作動性ニューロン

ここで、前回のおさらいです。ある神経伝達物質にを用いて情報を伝達しているニューロンを、その物質の名前を語頭に付けて「〜作動性ニューロン」と呼びます。よって、モノアミンと総称される神経伝達物質を用いているニューロンは、モノアミン作動性ニューロンということになります。今回の主役はこのモノアミン作動性ニューロンです。

モノアミン作動性ニューロンのうち、ノルアドレナリン作動性ニューロンは青斑核、セロトニン作動性ニューロンは縫線核と呼ばれる、脳幹内の各所に存在します。また、ヒスタミン作動性ニューロンは少し離れて、視床下部と脳幹の境界、結節乳頭体と呼ばれる部分に位置しています。これらのモノアミン作動性ニューロンから出た軸索は、大脳皮質の非常に広い範囲に、ほぼ大脳全体に張り巡らされるように枝分かれして広がっています。

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軸索が大脳全体に張り巡らされているということは、脳幹から発した情報が大脳に達し、脳全体に影響を及ぼすことが出来ることを意味します。脳幹から脳幹網様体を通過して大脳へと向かう情報の動きは、もちろん「上行性」のものですが、非常に広い範囲をカヴァーしているために、広汎投射神経系とも呼ばれます。

モノアミン系神経伝達物質の特異性

モノアミン系の神経伝達物質が他の神経伝達物質と異なるのは、その作用発現時間が遅く、効果が持続的であることです。脳幹内で主要な神経伝達物質は、グルタミン酸に代表されるようなアミノ酸系神経伝達物質です。アミノ酸系神経伝達物質は、ニューロンから他のニューロンへ受け渡されると、すぐに電気的な変化を引き起こします。これは、アミノ酸系神経伝達物質の受容体そのものがイオンチャンネルだからです。イオンチャンネルは、細胞膜にあるタンパク質の一種で、受容体では電位の発生に関わっています。

これに対して、モノアミン系神経伝達物質の受容には、もうワンステップが必要です。神経伝達物質が受容体に触れてから、Gタンパク質を介して受容体の細胞内で代謝的な変化を起こし、その結果として電位が発生するからです。

「直接手渡し」と「拡散希望」

アミノ酸系神経伝達物質とモノアミン系神経伝達物質で、受容体の作りが違うということは、それぞれニューロンの働きも違うことを意味します。

アミノ酸系神経伝達物質を用いるニューロン(アミノ酸作動性ニューロン)では、シナプスの周囲をアストロサイトと呼ばれるグリア細胞(神経系を構成するが神経細胞ではない細胞)が取り囲みます。アストロサイトは互いに排他的に働くため、シナプス間の情報伝達は局所的なものになり、近くのニューロンへ情報が漏れることを防いでいます。

これに対してモノアミン系神経伝達物質を用いるニューロン(モノアミン作動性ニューロン)では、軸索の末端が球形の物質をたくさん連ねたような形状になっていて、その球形の物質ひとつひとつからモノアミンが放出されます。アミノ酸作動性ニューロンとは対照的に、情報を広く撒き散らすような方式をとることで、周囲のニューロンに拡散できるような仕組みになっているといえます。このような伝達方法は容量伝達(ボリュームトランスミッション)と呼ばれています。

大きなかけ声

モノアミン作動性ニューロンは、このような情報伝達方式のおかげで、大脳全体に漏れなく情報を行き渡らせることが出来ます。モノアミン作動性ニューロンが「覚醒」のかけ声をかけると、脳全体が「覚醒しなくちゃ!」と、睡眠から覚醒へと機能を切り替えるのです。

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次回は覚醒と睡眠を切り替えるもうひとつのメカニズム、コリン作動性ニューロンを中心としたメカニズムについて見ていきましょう。

Lesson 4-4 まとめ

  • モノアミン…アミノ酸からカルボキシル基が外れた形を基本として持っている化学物質の総称。ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、ドーパミンなど。
  • モノアミン作動性ニューロン…脳幹や結節乳頭体にあり、軸索は大脳皮質全体に張り巡らされている。そのため、脳幹から発した情報が脳全体に影響を及ぼすことが出来る。
  • モノアミン系神経伝達物質…作用発現時間が長く、情報を広く拡散させるように伝達する。
  • アミノ酸系神経伝達物質…作用発現時間が短く、情報は局所的に伝達される。