Lesson 8-3 睡眠時間と寿命の関係

寝不足は早死にする?

1980年代半ばから2007年にかけて、1万人以上を対象とした、睡眠時間と寿命に関する大規模な研究が、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究グループによって行なわれました。調査結果によると、睡眠時間が平均より2時間以上短かいと、死亡率が平均の2倍以上に跳ね上がるといいます。

同様の研究はアメリカでも行われており、やはり睡眠時間が7時間以下だと、早死にする傾向が早まるという結果が出ています。日本での調査が行なわれていないのが残念ですが、睡眠の本質に人種は関係ありませんので、日本人にも同様のことが言えると考えられます。

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メラトニン

睡眠不足はなぜ死を早めるのでしょうか。近年の研究から、メラトニンとの関係が示唆されています。メラトニンは松果腺から分泌されるホルモンで、血圧を下げて、心臓発作や脳卒中などを起こりにくくします。しかし睡眠が不足すると、メラトニンの分泌が減少するため、高血圧になる危険性が増大してしまいます。睡眠時間が6時間以下の人は、6時間以上の人と比べると高血圧になる危険性が3倍以上、心臓病で亡くなる可能性が2倍以上になるという研究結果もあります。

高血圧が原因となって発症する病気には、糖尿病や脳卒中、心臓病など命に関わるものが多いため、睡眠不足が寿命を縮める理由の一端はここにあると考えられています。また、メラトニンは、ガンと関係するホルモンの分泌を抑える働きもしているため、その影響は高血圧だけにとどまらず、非常に大きなものです。

眠りすぎから過眠症へ

睡眠と健康に関する研究は、睡眠不足の弊害について調査したものがほとんどですが、近年では、過眠(眠りすぎ)が身体に与える影響についての研究も行われるようになってきています。

2009年に行なわれたいくつかの調査によると、毎晩9時間以上の睡眠をとっている人は、7時間程度の睡眠をとっている人よりも、糖尿病、心臓病、ガンなどの重い病気になりやすいことがわかりました。

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また、睡眠時間が長い人は過眠症になりやすいこともわかっています。過眠症になると、どれだけ眠っても疲れがなくならないので日中も眠気が取れず、昼寝をしても眠気は解消されません。集中力や記憶力が低下するいっぽうで、不安感は強まる傾向があります。この病気は遺伝性の要因が大きいと考えられていますが、他の睡眠障害が原因になったり、精神疾患治療薬からの離脱症状として現れることもあります。

眠りすぎも命を縮める

睡眠時間と寿命の関係については、もうひとつ、興味深い研究成果があります。イギリス、ワーウィック大学のフランコ・カプッチオ教授は、100万人以上の人々を対象に、長期間に渡る調査を行いました。調査開始から10年が経過したところで、対象者の死亡率を調べたところ、6時間以下の睡眠をとっていた人の死亡率は12パーセントでした。これも小さな数字ではありません。しかし、8時間以上の睡眠をとっていた人の死亡率は30パーセントにも上りました。

ほどほどが一番とはよく言ったものです。睡眠時間も短すぎず長すぎず、ほどほどを心がけるようにしましょう。

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Lesson 8-3 まとめ

  • 睡眠時間が平均より2時間以上短かいと、死亡率が平均の2倍以上に上昇する。
  • 睡眠が不足するとメラトニンの分泌が減少する。
  • メラトニン…松果腺から分泌されるホルモン。血圧を下げるほか、ガンと関係するホルモンの分泌を抑える。
  • 睡眠不足は高血圧、糖尿病、肥満、ガンなどになる可能性を高める。
  • 睡眠不足は食欲を増進させ、甘いものや脂っこいものを食べたくさせる。
  • 眠りすぎも糖尿病、心臓病、ガンなどの重い病気になりやすい。
  • 過眠症…どれだけ眠っても疲れがなくならないため、日中も眠気が消えず、昼寝をしても解消されない。集中力や記憶力が低下するいっぽうで、不安感は強まる。
  • 死亡率は睡眠不足より眠りすぎによって増大する。