Lesson 7-1 眠っているあいだに…

夢遊病と夜驚症

一般に、夢遊病夜驚症と呼ばれている病気があります。正式にはそれぞれ、睡眠時遊業症睡眠時驚愕症といい、ともに睡眠時随伴症(パラソムニア)に分類されます。眠っているあいだ、本人が気づかないうちに、なんらかの行動を起こしているという病気です。

特に夢遊病はよく知られた病気のため、なんとなくイメージがつく方も多いと思いますが、まずは特に世間を驚かせた症例を二つ、見てみることにしましょう。

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夜中に全裸で芝刈り

2005年、イギリスでの出来事です。深夜、庭から聞こえてくる物音で目を覚ましたレベッカ・アームストロングは、夫のイアンが眠っているはずのベッドが空になっていることに気づきます。不審に思って、おそるおそる1階へと降りていった彼女が発見したのは、庭で芝刈り機を操縦している全裸の夫の姿でした。それだけでもじゅうぶん驚くべきことでしたが、さらに彼女が驚いたことには、すでに庭の芝はほとんど綺麗に刈り取られた後だったこと、そして芝刈り機を操縦しているにも関わらず夫が眠っていることでした。

イアンが寝ぼけて夜中に歩き回ることは、これまでにも何度かありました。しかし今回は明らかに様子が違うため、レベッカは必死で芝刈り機のエンジンを切り、イアンを寝室に連れ戻しました。イアンはしばらくすると目を覚ましましたが、自分が寝ながらしていたことについては信じられないといった様子でした。

眠ったままクレーンのアームを登る

同じく2005年のロンドンでもう一件、夢遊病者引き起こした事件がありました。深夜、通報で駆けつけた警察と消防隊が見たものは、高さが40メートルもあるクレーンのアームの上で横たわっている少女の姿でした。消防隊が慎重に近寄ってみると、彼女は熟睡していました。少女のポケットから携帯電話を取り出した消防士は、すぐに母親に連絡し、母親の声で目を覚ました彼女をリフトで地上へ降ろしました。彼女は眠ったまま、クレーンのアームの上を歩いて、地上40メートルの高さまで登っていったことが分かりました。

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意外に多い夢遊病経験者

これら二つの事件は、少々極端な例ですが、夢遊病患者がとる行動には、突拍子がないものが少なくありません。何十キロも車を運転したり、メールで見知らぬ人を食事に招待したりといった例も報告されています。ベッドの上に起き上がる、部屋のなかを歩き回るなど、比較的些細な行動にまで範囲を広げると、驚くほど多くの人が夢遊病を経験しているという報告もあります。アメリカで行われた調査では、成人の4パーセント、約800万人が夢遊病を経験していました。しかし、睡眠時随伴症は幼少〜児童期にかけての症例がもっとも多く、未成年者では15パーセントが夢遊病を経験しているという調査もあります。

夜中に突然パニックに

子どもに症例が多いという点では、夢遊病よりも夜驚症にその傾向が顕著です。発症率を見ると、子どもが6パーセント、大人が2パーセントと、子どもが大人の3倍の数字を示しています。

夜驚症の症状が現れると、寝ている最中に恐怖やパニックに襲われ、大声で泣き叫んだり、暴れ出したりします。近くに寝ている人がいる場合は、掴みかかったりすることもあります。赤ちゃんや小さな子どもの場合は、夜泣きと混同されやすい症状ですが、夜泣きは部屋の灯りをつけて、声をかけてあげたりすれば起きて泣きやむのに対して、夜驚症の場合、本人の恐怖を止める方法はなく、症状が落ち着くまで見守るしか術がありません。

とはいえ、夜驚症はほとんどの場合、幼児期だけで消失することが知られており、特に治療も必要ありません。寝室に危険物を置かないことさえ心がければ、身体を傷つけてしまうようなこともありません。

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夢遊病に関しても、近年研究が進んで、原因や対処法が少しずつ明らかになってきています。次回は睡眠時随伴症のメカニズムについて見てみましょう。

Lesson 7-1 まとめ

  • 夢遊病(睡眠時遊業症)…ベッドの上に起き上がる、部屋のなかを歩き回るなどの単純な行動がほとんど。車を運転したりパソコンを操作するなどの複雑な行動をするケースもある。
  • 夜驚症(睡眠時驚愕症)…寝ている最中に恐怖やパニックに襲われ、大声で泣き叫んだり、暴れ出したりする。幼児期に多い。
  • 睡眠時随伴症(パラソムニア)…眠っているあいだになんらかの行動を起こす病気。子どもに多い。