夢は水平思考の変形である
前回は、夢が持つセラピー効果の研究について見てきましたが、他にも、夢が持つポジティブな側面について研究する睡眠学者は数多くいます。カリフォルニア州スタンフォード大学のウィリアム・デメントもそんな一人です。
デメントは、夢は水平思考の変形であると仮定しました。
水平思考
では、水平思考とはいったいなんでしょう。簡単に言うと、論理的な思考法(垂直思考)とは反対に、直感を重視する思考法です。論理的・分析的な思考法は、問題の分析などに効力を発揮しますが、その性格上、斬新な発想が生まれないことが欠点です。水平思考は、様々な視点から物事を捉えることで、既成の思考にとらわれない斬新な発想を生み出しやすいとされています。よく用いられる比喩で表すと、垂直思考がひとつの穴を深く掘り進めるのに対して、水平思考は地面にいくつもの穴を新しく掘っていきます。
デメントは、夢の荒唐無稽さや予測不可能性に、新たな視点をもたらす水平思考と似た感触を覚え、上のような仮説を立てました。夢には問題解決能力があると考えたのです。
デメントの実験
デメントは500人の被験者を集め、実験を開始します。被験者は半数ずつ、2つのグループに分けられました。デメントは実験にあたって、謎解きパズルを用意していました。このパズルを、一方のグループには午前中に渡して、その日の夜までに謎を解くように頼み、もう一方のグループには就寝前に渡して、翌朝、答を出すように頼みました。
実験の結果、問題を見てから答を出すあいだに睡眠をとった参加者のほうが、高い正解率をはじき出しました。被験者の多くは、目が覚めるとすぐに、昨夜渡された問題を、解答と一緒に思い出したといいます。
問題解決能力の向上
デメントの実験だけを見ると、被験者の問題解決能力が夢を見ることでアップしたのか、それとも単に寝起きで頭が冴えていただけなのか、結論づけることは出来ない。カリフォルニア大学サンディエゴ校のドニーズ・カイはそう考え、実験を行ないました。
デメントの場合と同じように、発想力が必要になる謎解きパズルをいくつか与えられた被験者たちは、パズルに挑戦した後、1時間横になって過ごすように頼まれました。被験者たちはそれ以上の指示を与えられなかったので、ただ横になっている者、うたたねをしている者、眠り込んでしまう者に分かれました。1時間後、被験者たちは再びいくつかのパズルに挑戦しました。その結果、夢を見る眠りをとった被験者だけが、問題解決能力がアップしていました。問題解決能力は、睡眠ではなく夢によって向上することが証明されました。
リラクゼーション・エクササイズ vs 夢
カリフォルニア州レディング・アカデミック・センターの教授、グレゴリー・ホワイトは、これらの実験結果に見られた問題解決能力の向上には、リラクゼーション効果が関係しているのではないかと考え、実験を行ないました。
ホワイトは、集まった被験者に、個人的な悩みをいくつか書き出してもらうと、彼らをふたつのグループに分けました。一方のグループにはリラクゼーションのエクササイズを、もう一方のグループには夢を見る睡眠をとってもらい、その後、自分が書き出した問題の解決法について考えてもらうようにしました。
実験は10日間続けられ、どちらのグループにも問題解決能力の向上が見られましたが、夢を見ていたグループのほうに、効果は顕著でした。また、彼らのほうが、ストレスも大幅に減っていたといいます。
寝る前に問題を書き出してみよう
夢に問題解決能力があることを示唆する例は、枚挙に暇がありません。また、難しい手順を必要としないことも、多くの事例に共通しています。ハーバード大学のディードリ・バレットが試した方法も、とても単純なものです。
彼は、人間関係などで比較的大きな悩みを抱えている人たちに、協力を頼みました。毎晩ベッドに入ったら、自分が抱えている悩みについて、出来るだけ具体的に書き出してから眠るように頼んだのです。翌朝、結果を尋ねてみると、参加者のうち約半数が、自分の悩みについての夢を見ており、そのうちの70パーセントが、夢のなかで解決策が見つかったと話しました。
あまりに深刻な問題の解決を夢に任せることは、難しくまたリスクも大きいでしょう。しかし、それほど大きくない悩みなら、夢に相談してみるのも、ひとつの手かもしれません。あなたも、今夜眠る前に、悩みについて書き出して、朝が来るのを楽しみにしながら眠ってみてはいかがでしょうか。
Lesson 6-8 まとめ
- 夢は水平思考の変形である…夢には問題解決能力がある。
- 水平思考…論理的な思考法(垂直思考)とは反対に、直感を重視する思考法。
- 問題解決能力は、睡眠ではなく夢によって向上することが証明された。