Lesson 6-2 フロイトの登場

すべてはフロイトから始まった…?

https://en.wikipedia.org/wiki/Sigmund_Freud#/media/File:Sigmund_Freud_LIFE.jpg

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夢の内容にはなんらかの意味がある、夢は潜在意識下の何かを暗示している…。人々が今も心のどこかで、あるいは強くそう考えているのは、他ならぬジークムント・フロイトの影響です。このオーストリア出身の精神分析学者の尋常ではない巨大さは、医療分野に限らず、20世紀の文化全般に彼が与えた影響と、それにも関わらずいまだに絶えず揺れ動いていて定まることのない評価からも,その一端を窺うことが出来ます。

ここではとりあえず、フロイトがその著書『夢判断』を出版するまでに辿った過程をたどり直してみましょう。

研究の原点

1856年に生まれたフロイトは、ウィーン大学に進学し、物理などを学んだ後、医学部の生理学研究所に入所します。当時の研究テーマは魚類や両生類の脊髄神経細胞に関するものでした。しかしその他にも、失語症や脳性麻痺についての論文も残しています。すでに幼少期から、人間の脳や心の動きに強い興味を持っていたともいわれる彼は、「心の動きを脳内の神経の働きと結びつけて、科学的に解明する」というヴィジョンを、少しずつ明確に持つようになります。フロイトが描いた目標は、当時の神経科学や脳科学の実情からは遠く隔たったものでした。しかし、これまでに学んできたように、「心の動きを脳内の神経の働きと結びつけて、科学的に解明する」というフロイトの原点は、その後進展していく睡眠研究と非常に近いものであったことがお分かりになるでしょう。

精神分析法の発明

1880年代後半、パリ留学を経てウィーンへと戻ったフロイトは、留学中に得た催眠療法の知識を活かしつつ、自分なりの改良を加えていき、精神分析法を生み出します。

フロイトも催眠療法を研究し、実際に臨床での治療にも利用していましたが、この治療法には限界がありました。まず、すべての患者が催眠状態になるわけではないということ、そして、たとえ催眠状態になったとしても、暗示が効くほどの深い催眠状態になれる患者は限られていることが問題でした。当時の多くの神経学者がそうだったように、フロイトは、人々は無意識のうちに様々な性的抑圧や攻撃衝動を抱え込んでいて、そのために精神的な病に陥ってしまうと考えていました。そのため、それら無意識のうちに抱え込んでいるネガティブな感情やイメージを表に吐き出させてしまう催眠カタルシスという治療法を用いていました。しかし、患者が抱え込んでいるイメージや言葉を思い出させるには、浅い催眠状態では不充分なことに気づき、治療法を改良する必要性を感じたのです。

フロイトは催眠カタルシス法に改良を重ねて、自由連想法と呼ばれる治療法を生み出します。自由連想法は、ベッドに横たわってリラックスさせた患者に、心に浮かんだイメージや言葉を、思いつくまま自由に述べていってもらい、患者が無意識のうちに抱え込んでいる抑圧や衝動を医師が探り出すという治療法です。セラピーやカウンセリングといったほうが、イメージしやすいかもしれません。フロイトはこの手法を精神分析と名付け、その後さらに研究を重ねて、治療法の改良、理論の構築をしていきます。

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無意識は夢に現れる

そして、フロイトは夢に着目します。無意識のうちに抱えている様々なイメージの断片が、睡眠中に姿を現したものが夢ではないかと考えたのです。

1896年に父が亡くなったことにショックを受けたフロイトは、酷い抑鬱状態に陥ります。友人の医師などにも頼りながら、いわば自分自身を患者として、幼児体験の回想や夢の分析を続けました。この頃を境として、フロイトの関心の対象は、精神的外傷の治療から、無意識そのものに移行していきます。精神分析法も、心的外傷の治療法から無意識を研究する手法へと、その性格が修正されていきます。

有名な著書『夢判断』が出版されたのは、1900年のことでした。当時600部発行された初版が完売するのに、8年もの月日を要したという有名なエピソードからも分かるように、当時の理解者は皆無と言ってよいほどで、フロイトは周囲からの孤立に苦しめられました。

しかし、その後の研究に与えた影響は大きく、また現代のわたしたちが抱いている「夢」のイメージへの影響も、前回のカーネギー・メロン大学のアンケート調査を見るまでもなく明らかです。

次回は、フロイトが夢をどう捉えていたのかを、さらに詳しく見ていきたいと思います。

Lesson 6-2 まとめ

  • ジークムント・フロイト…1856年オーストリア出身の精神分析学者。精神医学や心理学の基礎を作った。また、20世紀文化全体に大きな影響を残した。
  • フロイトの研究の原点…心の動きを脳内の神経の働きと結びつけて科学的に解明すること。
  • 19世紀後半、神経学の分野では、人々は無意識のうちに様々な性的抑圧や攻撃衝動を抱え込んでいるために精神的な病に陥ってしまうと考えられていた。
  • 自由連想法…ベッドに横たわらせた患者に、心に浮かんだイメージや言葉を思いつくまま自由に述べさせ、患者が無意識のうちに抱え込んでいる抑圧や衝動を医師が探り出す治療法。
  • 精神分析法は自由連想法の別名だったが、のちに心的外傷の治療法から無意識を研究する手法へと性格が修正されていく。
  • フロイトは、無意識のうちに抱えている様々なイメージの断片が、睡眠中に姿を現したものが夢ではないかと考えた。