寝ると忘れる?
大切な試験や会議の前日に、徹夜で知識を詰め込もうとする、いわゆる「一夜漬け」をした経験は、誰にでもあるものと思います。勉強が間に合わなくなり、やむを得ず一夜漬けで試験に臨むというケースの他に、「勉強しても寝ると忘れてしまうから今夜は寝ない」と、寝ないで勉強する人もいます。
心情的には、とてもよくわかる話でしょう。しかし、結論から言うとこれは間違いです。起きているあいだに勉強したことや覚えたことを、記憶として定着させるために、睡眠が不可欠だということは、古くから知られている事実です。
エビングハウスの実験
ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスが1885年頃から行なった、記憶と忘却に関する実験は、少々ややこしいものの、大変興味深いものとして現在でも有名です。
エビングハウスは自身を自分の実験の被験者に選びました。彼はまず、実験が過去の自分の体験や記憶に影響されることを防ぐために、まったく新しい単語を作ることから始めます。彼は「子音・母音・子音」から構成される三文字の無意味な単語を約100個作り、リスト形式にまとめました。そして、このリストをメトロノームに合わせて暗唱することを繰り返し、ほぼ間違いなく暗唱することが出来るようになったところで、実験を開始しました。
彼は、20分後、1時間後、24時間後、1週間後…と、細かく段階を追って、自分がどれだけ単語を忘れずに覚えているかを記録していきました。結果を見ると、1時間後には10パーセント、その1時間後には5パーセント…という風に、指数関数的に記憶が減っていくことを発見しました。これをグラフにしたものは忘却曲線と呼ばれ、多くの学者が作成していますが、エビングハウスのものがもっともよく知られています。
忘却のカーブ
エビングハウスは実験を繰り返し、記憶と忘却の関係を丹念に検証しました。その結果、彼はある法則性を見出します。記憶の現象を示すグラフは、日中よりも夜、眠っているあいだのほうが緩やかな曲線を描いています。つまり、記憶が減少する度合いは、夜間のほうが少ないということを発見したのです。
なぜこのような現象が起こるのか、科学者たちは実験を重ねました。もっともポピュラーな方法は、被験者を以下のような2グループに分けるものでした。
- 寝る前に単語リストを暗記してもらい、翌朝、どれだけ記憶しているかを確認する。
- 朝、単語リストを暗記してもらい、夕方にどれだけ記憶しているかを確認する。
結果は、エビングハウスの実験結果を裏付けるように、前者の被験者群のほうが、より多くの単語を記憶していました。冒頭で述べたように、学習した記憶を定着させるためには、睡眠は不可欠だということが、証明されたのです。
睡眠は記憶を定着させる
前回見てきたいくつかの実験が試みたように、眠っているあいだに何かを学習することは不可能です。しかし、だからといって睡眠と学習が無関係ということではありません。起きているあいだに学習したことを定着させるために、睡眠を欠くことは出来ません。
次回は記憶と、その種類について見てみましょう。
Lesson 5-2 まとめ
- エビングハウスの実験…指数関数的に記憶が減っていく。グラフにしたものを忘却曲線という。
- 学習した記憶を定着させるためには睡眠が不可欠。