概日リズムが異なる理由
地球上の生物のほぼすべてが体内時計を持ち、概日リズム(サーカディアン・リズム)を刻んでいて、ヒトもまた、体内時計が刻む概日リズムの影響を受けながら活動し、睡眠をとっています。
概日リズムに個人差があることは、これまでにもお話してきましたが、睡眠研究の初期の段階で、研究者たちが強い関心を持ったのが、この個人差が生じる理由はなにか?ということでした。現在では、遺伝子による影響が大きいことが分かっていますが、それはかつての研究者たちが提唱した、クロノタイプ(時間特性)という概念をめぐる研究が積み重ねられてきたおかげでもあります。
クロノタイプ
「自分は朝型だから早起きが得意」とか、「夜型だから朝はつらくて」といった言葉は、日常生活でもよく耳にしますが、ヒトは朝型と夜型のどちらかにあてはまるという説が、クロノタイプです。睡眠研究の初期に提唱された概念を、知らず知らずのうちに口にしているのです。
クロノタイプによる朝型と夜型の定義は、次のようなものです。
- 朝型(ヒバリタイプ)…夜は早く寝て、翌日朝早く起きる人。
- 夜型(フクロウタイプ)…夜は遅くまで起きていて、翌日は昼近くになるまで寝る人。
人のクロノタイプを決定するために、研究者たちは様々な手段を用いました。初期の段階で広く使われたのは、眠くなる時間帯や目覚めた時間帯とその時の気分などを訊ねる質問表です。その他にも体温や、血液中のホルモン濃度などの測定も行なわれました。
長年にわたる研究の結果、クロノタイプは遺伝子でほぼ決定してしまうこと、朝型と夜型で性格や体質に違いが見られることなどが明らかになってきました。概日リズムが人それぞれ少しずつ異なるのも、このようなクロノタイプの性質と関係があります。
前回、体内時計の個人差は遺伝子の違いによることをお話ししました。体内時計の周期が、24時間よりも長いと夜型になり、反対に24時間よりも短いと朝型になると考えられています。
朝型と夜型
では、朝型と人と夜型の人のあいだには、主にどのような違いが見られるのでしょうか。
典型的な朝型の人は、夜10時頃に眠りに就き、朝は6時頃に起床します。目覚まし時計は使わないことがほとんどです。午後の眠気もそれほど強くありません。頭が明晰で活動的になれる時間帯は、午前9時から午後4時頃にかけてです。
夜型の人の場合は、夜1時頃に眠り、朝は9時頃に起床します。目覚まし時計が一度鳴っただけでは起きられないことも多く、午後の眠気も強いため、昼寝を多くとる傾向にあります。もっとも活動的になれる時間帯は、午後1時から午後10時頃と考えられています。
ここまでは、おおよそ一般的な朝型人間と夜型人間のイメージと合致するのではないでしょうか。研究結果はさらに、次のような特徴が見出せることも示唆しています。
- 朝型…内向的だが論理的で、信頼できる人柄。
- 夜型…外交的、情緒安定型で創造力があるが、信頼できない人柄で、ナルシスト的。
他にも、夜型の人間は食事を夜に摂る傾向があるため、朝型の人間より太りやすい、論理的な朝型の人間のほうが勉強や仕事の成績が良い、とも言われています。学校や会社の始業時間には、時間特性の違いを考慮して配慮することも必要であると唱える研究者もいます。
その人が朝型と夜型のどちらに近いかを見極め、配慮することは必要かもしれません。しかし、このような性格傾向の分類を尊重しすぎることは、他人を必要以上に類型化し、偏見を持って見てしまう危険性も孕んでいることを、しっかり肝に銘じておく必要があります。
深部体温の違い
性格面の他に、体質にもクロノタイプによる違いが見られることが分かっています。人間の深部体温(身体の内部の温度)は、覚醒レベルと同じように、約24時間周期で変動しています。日中は37℃前後で、夜間になると36℃前後に下がります。この深部体温の日内変動のリズムが、朝型の人と夜型の人では異なります。夜型は、夜になって体温が下がり始めるタイミングが朝型よりも遅く、そのため朝の体温上昇のタイミングも遅くずれ込みます。活発に活動できる時間帯が、ふたつのクロノタイプによって異なるのは、深部体温の日内変動リズムの違いによるものだったのです。
Lesson 1-6 まとめ
- クロノタイプ(時間特性)…ヒトは朝型と夜型のどちらかにあてはまるという考え方。
- クロノタイプは遺伝子でほぼ決定してしまう。
- 朝型(ヒバリタイプ)…夜は早く寝て、翌日朝早く起きる人。
- 夜型(フクロウタイプ)…夜は遅くまで起きていて、翌日は昼近くになるまで寝る人。
- 体内時計の周期が、24時間よりも長いと夜型に、短いと朝型になる。
- 活発に活動できる時間帯がふたつのクロノタイプによって異なるのは、深部体温の日内変動リズムの違いによる。
- クロノタイプを尊重しすぎることは、他人を必要以上に類型化し偏見を持って見てしまう危険性も孕んでいる。